【香りの読書/その2】赤江瀑「オイディプスの刃」
以前、画家の樋上公実子さんに教えていただいて気になっていた
赤江瀑の「オイディプスの刃」、面白くて一気に読了しました!
ものすごい、ただならぬ雰囲気漂うカバーですよね…。昭和49年初版なのですが、装幀は横尾忠則が手がけているそうです。
「備中次吉」という刀の魔力が引き起こした白日の惨劇と、亡くなった調香師の母のラベンダーの匂いの記憶が、息子たち3人の運命を狂わす妖美華麗な世界観を描く長編小説。第一回角川小説賞受賞作。
調香師が何人も登場する物語なのですが、第三章の始まりがゾクっとします。
「調香室には風がない。
言いかえれば、風を持たない空間である。
匂いが動いてはならない。
また、香料の微量な一しずくをあらそう、いわば匂いを計る天秤の微妙な動きと対い合わねばならない部屋だ。
フラスコをのせた天秤は、香液のかすかな重み、積みかさなりのひそかな気配、それ以外のどんな動きも伝えてはならなかった」
まさに調香室の緊迫感とはこんな感じ。
計りはちょっとした風にも影響されてしまうので、私も基本的には空調もつけずに調香します。
いつ見たの?!というくらいリアルな表現に、あっと思わさせました。
またこのシーンが、3兄弟の緊迫した関係性とすごくマッチしていて、流石の言葉選びだなと感動しました。
試香紙に匂いをつけた後の変化を追っていく調香師の姿や、処方の組み方、香料メーカーの調香師と化粧品会社の専属調香師の違いなどについてもリアルで詳細に描かれているのも、香りの仕事に興味のある方にとっても読み応えのある本だと思います。
人生を狂わせた「刃」の香りってどんなだろうと、想像しながら読んでいただきたい名作です。