gemme du parfum

宝石のようにしづかに輝く、香りのおはなし。

アイリスの花言葉

私の一番に愛する小説家・小川洋子の、「ホテル・アイリス」を最近読み返しました。

 

少女と老人が主な登場人物なのですが…

 

少女の母は「アイリス」というホテルを営んでいて、常に母親やアルバイトのおばさんに監視され、その館の中の狭い世界に閉じ込められ、若くして諦念と共に生きています。

 

対して、老人はアイリス」のある地から、船で渡らないと行くことのできない島に住むロシア語翻訳家で、過去の出来事や記憶に束縛されたままひっそりと、たまにこじらせた感情を露わにしながら過ごしています。

 

そんなふたりが、とある出来事からふたりにしか理解できない関係性へと変わってゆく…。

 

純愛とは何か、よくわからないけれど、私には純度が高ければ高いほど、周りの人間は二人の視界からは消失してしまう、空気の濃度が薄く息苦しいような、死に近い気配が漂っているような気がします。

 

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少女の棲み家「アイリス」。

アイリスの花言葉は、「恋のメッセージ」「雄弁」「消失」「あなたを大切にします」。

アイリスはギリシャ語で「虹」。虹をかけないと辿りつけない程遠い海の向こうまで、苦労して辿りつきたい愛するひと。声をもたない甥の雄弁な言葉、毎週金持ちのおばあさんの名前で届くラブレター、突然の喪失…

 

この物語は、一見すると小川洋子らしい無機質さとは正反対の過激さを感じるけれど、そこかしこに静かに語られる詩的な美しさに溢れているのです。

 

アイリスの花は、青く土っぽいひんやりと澄んだ香り。

老人が還っていってしまった海の中に、アイリスの香りは漂っているだろうか。